LFJ TOKYO 2024 エリプソス四重奏団公開レッスン見学記

 
「この公開レッスンは、きっと料理をつくる現場を見ているように楽しい時間になると思うよ。」

5/5、丸の内の音楽祭LFJ(ラ・フォル・ジュルネTOKYO)で、エリプソス四重奏団(Quatuor de Saxophones Ellipsos)のマスタークラスを見学しました。

エリプソスのメンバーが、はじめに言ったこの言葉の通り、公開レッスンの見学は、最初から最後までわくわくと楽しいものでした。

そもそも彼らのパフォーマンスに初めて触れたのも、この音楽祭。昨年、2023年の公演で4人のアンサンブルのおもしろさに興奮! すっかりファンになってしまったのです。

音楽祭”ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2024”の会場・東京国際フォーラム


今年も同音楽祭へ出演すると知ったとき、ぜひまた演奏を聴きたいと熱望しましたが、彼らの出演プログラムのチケットは既に完売。

それでも諦め切れず、未練たらしく音楽祭の3日間のプログラムを端から端まで眺めまわしていたところ、マスタークラスが行われることを知りました。

彼らがどのように、あの素晴らしい音楽、アンサンブルをつくり出すのかを垣間見られるまたとないチャンス!
興味津々で見学に臨みました。



公開レッスンは、先ず受講生さんたちで編成されたカルテットの演奏から始まりました。
課題曲は、サンジュレー:サクソフォーン四重奏曲から第1、4楽章。


「先ず、大切にしたいのは、楽曲について、そして楽曲の生まれた背景だよ。 この曲はサクソフォーンという楽器が生まれた10年後につくられた曲。作曲者のサンジュレーは、サクソフォーンを発明したアドルフ・サックス(Adolphe Sax1814ー1894)の友人で、作風は新古典派。 新古典派と言えば、ちょうどこの頃流行っていたのは、オッフェンバック(Jacques Offenbach,1819-1880)のオペレッタ。」

そしてもう一つの重要なことは・・

「このことはとっても大切だから何度も言うけど、サクソフォーンというのは”声を出した延長線上に音が出るんだ。”だから楽器と身体の距離感を常に呼吸や筋肉に負担のかからないポジションにして舞台の上でも気持ちよくいられることが大切だよ」


いよいよ音を出しながらの手ほどきが始まりました。
受講生さんたちのカルテットが最初の9小節を演奏しました。
レッスンは細かく立ち止まりながら進んで行きます。

「出だしはとても不思議な感じがするんだ・・どこからこの音たちは来たのだろうと・・そう、nothing(無)からピアニッシモで音が現れるんだ。」

何度か受講生さんたちがピアニッシモを試みました。
そのあと、エリプソスが同じ部分を演奏しました。

百聞は一見にしかず・・ならぬ、”百聞は一聴にしかず”。
エリプソスが演奏を始めると、霧の中から微かに音が立ち現れたかのように幽玄な3和音の響きが聴こえてきました。
それは魔法を見ているように幻想的で、思わず溜め息がもれました。

「ピアニッシモは、音が出る前に息が入っている。 息から音が生まれるんだ。 最初に息を吹き込んで、次に唇をつくる。」

受講生さんたちが試みました。
幾度かやっているうちに、ピアニッシモの美しい響きが現れました。

「ピアノのように平均律に調整された楽器とちがって、風を吹き込む楽器は、純粋な長三和音の響きがつくれるんだよ。トニックがベース、そしてそこに5度を足す。トニックと5度はとても安定しているけれど、最後の3度は難しい。低めに調整して足す。すると光が入るんだ。」

原始から吹く自然の風がハーモニーを生み出している・・そんなイメージが一瞬にして心の中に広がりました。
こんなにも丁寧に繊細に長三和音の響きを生み出す。
なんて豊かなのだろう!

公開レッスンが進むにつれ、感動がじわじわと胸に広がり、次第に惹き込まれて行くのを感じました。

他にもここに書いておきたいことは、たくさんあるのですが、印象に残ったことをもう一つだけ。
曲の中間に、各パートが各々メロディを聴かせる印象的な部分がありました。

「各自が自分の楽器の一番美しい音色を聴かせて・・”オペラだと思って”やってごらん。」

そう、この楽曲は最初に教えてもらった通り、オッフェンバックのオペレッタが流行していた時代に書かれたもの。その影響のせいかメロディーに、のびやかなオペレッタの要素を感じます。だからメロディは、歌のように朗々と、伴奏はそれに寄り添うように。まるでオペラを演じているように演奏するのがよいというのです。
更に、バリトンとソプラノは愛のデュエットを奏でているのだと。

「試しに最初はノームーブメントにフィジカルに演奏してみて、次に怒りをこめて演奏する。そして最後は、”愛しくて愛しくてたまらない”というように。あるいは怒りと愛しさを混ぜてみてもいいよ。同じフレーズを様々なパターンで演奏してみて。」

受講生さんたちが何度か様々なパターンに挑戦しました。
続いて、エリプソスが、それらを次々に演じてみせてくれました。
それは、まさに演奏というより、役を演じているような雰囲気でした。
オペラのようにそれぞれのパーソナリティーが輝き出すと、たちまち楽曲は生き生きと本来の姿を現してくれました。
器楽曲なのに、まるでサクソフォーンがそれぞれに言葉を喋っているようで何とも言えず楽しい!

「僕たちはこうやって、いつも、いく通りもの様々な歌い方を試しにやってみるんだ。そうするとライブのとき瞬間的に感じたことを演じられるようになるんだ。」


料理をつくる現場を見ているような楽しい時間。
音楽の魔法を教わっているような、わくわくの公開レッスン見学はあっという間でした。

それにしても、なんて豊かなのだろう。
丁寧に音楽が紡ぎ出されて行く時間。
何より、メンバーそれぞれが音楽に向き合う真摯な姿勢が心に残りました。
辛抱強く、音楽(楽曲)が何を求めているのか探求する。
果てしない探求と実践の積み重ね。
ライブでのあの魅力的なパフォーマンスの秘密を垣間見ることができたように思いました。
そして、ますます彼らの音楽をライブで聴きたくなってしまったことは言うまでもありません。

「来年もまた、この音楽祭に来てくれますか?」
購入したCDにサインをして頂いたときに、メンバーのお一人に訊いてみました。
「I hope.」
力強く頷いてくれました。

再び彼らの演奏をライブで聴ける日が楽しみでなりません。





エリプソス四重奏団(サックス四重奏)
Quatuor Ellipsos (quatuor de Saxophone)
2004年にナントで結成。パリ国立音楽院でメイエおよびル・サージュから指導を受けた。2007年、FNAPEC国際室内楽コンクールで第1位を獲得。古典作品から現代曲まで幅広いレパートリーを誇る。これまで、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、リヨン国立管、フランス放送フィルハーモニー管等の名門から招かれ共演。(ラ・フォル・ジュルネTOKYO2024プログラムノートより)

*Quatuor de Saxophones Ellipsos Webサイト
https://www.quatuorellipsos.com

*Quatuor de Saxophones Ellipsos公式YouTubeチャンネル (課題曲とは異なります)

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