音の風景♪2月 雪の日のピアノ練習
私が暮らしているこの地域に雪が降ることは少ないのですが、それでも年に数回は雪が降り積もることがあります。
生まれ育った場所では、雪を見ることが殆どありませんでした。
そのため、雪が降ることを夢見がちに想う子供時代を送りました。
その名残りのせいでしょうか、雪が降りだすとわくわくしてしまいます。
更に嬉しいことに・・・と言うと不謹慎かもしれませんが、
雪が降り積もり始めると、電車などの交通に影響が出るため職場でも早退を促され、早く帰宅できることが多いです。
暗くなる前に、雪を眺めながら家路を辿るのは格別です。
(雪の多い地域にお住いの方、呑気で申し訳ありません。)
まだ明るい時刻に暖かい飲みものをいただきながら、何度も窓の外を眺めたり、時折窓を開けてみたりと、子供のように落ち着きがなくなります。
音もなく降り続ける雪。
通りが普段とは違う世界に変わり始めます。
いつもの騒々しい通りが、静まり返ります。
そんな日はピアノの音も少し違って聴こえます。
間違いなく、ここ、私の暮らす部屋は、昭和の雰囲気漂う、いつもは騒々しい駅前通りのはず。
なのに雪の魔法のせいで、気分はすっかりバッハやモーツァルトが暮らしたヨーロッパの冬へとつながります。
と言うと、あたかもピアノが得意で、バッハやモーツァルトを悠々と弾けそうに思われそうですが・・・現実は、その反対です。
私はスラスラと格好よくピアノを弾くことは出来ません。
譜読みも遅く、暗譜も苦手。
多くの劣等感を抱えています。
つかえながら少しずつ楽譜を読み、音を拾います。
片手だけで弾いてみたり、歌ってみたり、同じところを何度も何度も・・・
もし誰かが傍で聴いていたとしたら、
『いったい何を弾いているのだろう?』と、訝しく思われるかもしれません。
それくらいに、ゆっくりゆっくり、ぽろりぽろりと。
いつもその調子で、いつまでたっても上達しません。
けれど、そうやって少しずつ音を鳴らし楽譜を読んで行くのが好きなのです。
そうしていると、まるで昔の大作曲家から届いたお手紙を読んでいるような気持ちになるのです。
世界中に残された全ての作品は、作曲家たちが残していったお手紙なのです。
一生を掛けても読みきれないたくさんの素敵なお手紙。
ゆっくりゆっくり時間を掛けて読み、私なりにその一つ一つを受け取って行きます。
そんなふうにして、ゆっくり練習している曲集の中にバッハの『平均律クラヴィーア曲集1巻』(BWV846-869)があります。
その中のどれ一つとして満足に弾けませんが、それでも好んでこの曲集を繰り返し練習します。
なかでも、24番目のプレリュードがお気に入りです。
難しいけれど、ゆっくりゆっくりぽろりぽろりと。
すると不思議なことに、決まって空から雪が舞う風景が浮かび上がります。
音もなく、とめどなく空から降り続く雪。
初めてこの曲を弾いたときから、そうでした。
そんな連想するのは私だけでしょうか?
不思議だなぁ。
そう思いつつ、やっぱり雪の降る日にはこの24番目のプレリュードを弾いてみたくなるのです。
雪の日のピアノ練習。
つかえながら、ぽろりぽろりと・・・
作曲家からのお手紙を、ゆっくりゆっくり楽しみます。