音楽手帖 P11. 予感
予感
©️2021 Inagi Kaori
Lyrics,Music,Piano,Vocal:ピコジュール
春先の雨が上がった夜。
街なかにいるというのに、生暖かい風のなかに、不意に海の匂いを感じることがあります。
微かに甘い花の香りも混ざったその風の匂いを吸い込むと、たまらなく切なくなり、訳のわからない感覚に襲われます。
一番最初に、その感覚を味わったのは、高校2年の終わりの頃。
ピアノのお稽古の帰り道でした。
焦がれるものに手の届かないもどかしさ。
闇の向こう側に、何かが始まりそうな予感と不安。
それは、思春期と云われる特有の不安定さゆえに生じた感覚なのか・・
不意に訪れた感覚に戸惑いながら、ひたすらに自転車のペダルを漕ぎました。
そして、目の前の闇を眺めながら、ふと、
『きっと、これから先、この夜のことは忘れないだろう。』と思いました。
その後、生まれ育った場所を離れました。
あれから随分と年齢を重ねました。
香りというものが、想像以上に、記憶と直結しているせいなのか・・
それとも、海の匂いが、故郷を思い出させるのか・・
はっきりとしたことはわかりません。
ともかく、春先、雨が上がって、生暖かい風が吹くと、不意にあの夜のことを思い出すようになりました。
まだ見ぬ春に心を震わせながら、自転車を漕いでいたあの夜のことを。
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