音の風景♪10月 熱狂と静寂の前に佇む
途切れることなくエンドレスに続く祭囃子。
御神輿を担ぐ人々の勇ましい掛け声。
太鼓の音は、地面から響き渡り、窓ガラスを震わせています。
毎週土曜日に練習を積み重ねて来た太鼓連の大舞台でもあります。
通りは人々で溢れかえり、熱狂に包まれます。
昨年と今年、例外的に2年続けてお祭りは中止ですが、いつもならそんな光景で溢れ返っている頃です。
私の住む部屋は、氏神様に程近く、前の通りは 「お祭り会場」の中心となります。
![熱狂の渦](https://picojoule.net/wp-content/uploads/2021/10/IMG_3957-1024x768.jpg)
熱狂の渦。
熱気と鳴り止まぬ音の洪水に包囲され、ぽつんと一人。
全身に祭囃子を浴びながら、窓辺に佇みます。
熱狂の渦の一員になれば、きっと楽しいに違いありません。
けれど地域の行事は、独り者の根無し草が参加するには、なかなかハードルが高いものです。
丸2日間、熱気と鳴り止まぬ音の洪水を浴びながら、
熱狂の渦の中心にあって、一人お祭りとは無縁に、冷静に普段通りの生活をする・・・
なかなか覚悟がいるものです。
もし、その覚悟が出来ないと思ったなら、どこか違う場所で2〜3日過ごすしかありません。
そんな事情から、数年前のこの時期に二泊三日で飯田に滞在したことがあります。
長野県飯田市。
なぜ飯田なのか?
親しくして頂いている先輩から幾度となくこの町の話を聞いたことがあったから。
それと、手頃な価格で泊まれるビジネスホテルがあること。
都内から高速バスが出ていること。(車酔いは心配ですが、高速バスは安価なのが魅力です。)
あとは、行ってからのお楽しみです。
夜遅く、ひんやりする雨の中、到着。
翌朝窓を開けると、雨上がりの爽やかな空気が入ってきました。
早速、辺りをぶらぶらと散策します。
可愛いりんご並木。
りんご並木の行きあたりには、なんと!・・・無料で入れる小さな動物園がありました。
碁盤の目のように広がる町を一通り回りました。
飯田の町は、歩いて回るのに、ちょうどよいと思いました。
図書館も、映画館も、公衆浴場(温泉)も、歩いて回れる距離にあります。
とりわけ気に入ってしまったのは、博物館、美術館、プラネタリウムが集結した
「飯田市美術博物館」です。
予備知識のないまま、訪れた、「飯田市美術博物館」は、
飯田出身の明治時代の日本画家、菱田春草(1874ー1911)の作品を多く収蔵・展示しているのだそうです。
恥ずかしながら、このときまで、この夭折の画家のことを知りませんでした。
けれど、すぐさま、この画家の描く世界に引き込まれていました。
なかでも、期間展示されていた『菊慈童』という作品を観たとき、
足が止まり、動けなくなってしまいました。
一瞬にして、不思議な魅力に取り憑かれてしまったのです。
『菊慈童』は、菊によって長寿を得た少年なのだそうです。
古代中国で皇帝に仕えていた慈童という少年が、王の枕を誤って跨ぐという罪のため危険な山奥に追放されたものの、
お経の文字を書いた菊の葉から落ちたしずくを飲んだところ、800年もの間、少年のままで過ごしたという
物語が下地になっているのだそうです。
![](https://picojoule.net/wp-content/uploads/2021/10/chrysanthemum-gb784e5bb8_1920-1024x683.jpg)
p.p1 {margin: 0.0px 0.0px 0.0px 0.0px; font: 11.0px ‘Hiragino Kaku Gothic ProN’; color: #000000} span.s1 {text-decoration: underline}
ぽつんと少年が佇む世界は、静寂です。
絶望も哀しみも遥かに超越した先に、茫漠と広がる静けさのようなもの。
幽谷にぽつんと佇む少年と向かい合ったまま、
立ちすくんで動けなくなりました。
ただただ、全身で、この幽谷の静寂を受け止めようと
時間を忘れて佇みました。
しばらく、そうした後、
800年もの間、少年のままの姿で、一人幽谷に生きなければならなかった少年に
お別れをしました。
飯田からの帰りの高速バスは渋滞に巻き込まれました。
遅々として進まぬ車中で眠気に襲われました。
まどろみの狭間。
朦朧とした意識の中で思いました。
呼ばれたのかもしれないな。
思いつきで決行した飯田旅行だったけど、
春草さんの菊慈童に呼ばれたのだ・・・きっと。
たまに、そんなふうに、『作品に呼ばれた』と思うことってありますよね!?
住まいに帰り着くと、通りには、2日間のお祭りの熱狂の余韻が漂っていました。
お祭りのあとの、気の抜けたような空気と秋の陽射し。
『菊慈童』の幽谷の静寂・・・あの無限の静寂から戻ったばかりの私には、
その生ぬるいような気の抜けたような、お祭りの余韻が、
やけに懐かしく親しいものに感じられました。
そして、思わずほっとしてしまった自分に気づき、
妙に可笑しくなって、ひとり笑ってしまいました。
♪ピコジュール :秋分点 The autumnal equinox 〜1分間のピアノ曲・1分間のショートトリップ〜
秋の風景をつなぎあわせて作った1分間のミュージッククリップです。
飯田で撮影の画像も2枚、織りまぜました。
ご視聴いただけると嬉しいです。