春の宵 掴もうとしても掴めない感覚
雨あがりの春の夜。
生暖かい風が吹く。
生暖かい風には、甘い花の香りが混ざり、
そして、街中にいるというのに、微かに海の香りも感じます。
その生暖かい風に吹かれると、不意に切ないような、訳のわからない感覚に襲われ、戸惑ってしまうのです。
毎年毎年、春になるたび、そんなことを感じていたのですが、
あるとき、同じように、この感覚に困惑していた詩人がいたことを知りました。
![](https://picojoule.net/wp-content/uploads/2021/03/P3130430-1024x768.jpg)
春宵感懐(しゅんしょうかんかい) 中原中也(1907ー1937)
雨が、あがって、風が吹く。
雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵(よい)。
なまあったかい、風が吹く。
なんだか、深い、溜息(ためいき)が、
なんだかはるかな、幻想が、
湧(わ)くけど、それは、掴(つか)めない。
誰にも、それは、語れない。
誰にも、それは、語れない
ことだけれども、それこそが、
いのちだろうじゃないですか、
けれども、それは、示(あ)かせない・・・・・・
かくて、人間、ひとりびとり、
こころで感じて、顔見合(かおみあわ)せれば
にっこり笑うというほどの
ことして、一生、過ぎるんですねえ
雨が、あがって、風が吹く。
雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵。
なまあったかい、風が吹く。
![](https://picojoule.net/wp-content/uploads/2021/03/P3130410-1-1024x768.jpg)
ふだん、まるで詩など読まない私ですが、
偶然にも、この詩に出会い、おおいに詩人に共感してしまいました。
言葉にはならない、この感覚。
毎年毎年、不意に感じては戸惑う、この感覚。
それは、これだったんだ!
やっと、わかってくれた人に出会えたようで、
深い共感が湧き上がりました。
詩人に言葉にしてもらえたことで、
妙な安心感と、無邪気な喜びさえ感じてしまいました。
掴もうとしても掴めない感覚。
詩人が掴めない感覚を、そのまま言葉に残したように、
掴めないまま、歌にしておきたいと思いました。
詩人の言葉を、なぞるようにつくりはじめ、
浅はかと思われそうですが、
ほんのわずかなロマンスのようなものを混ぜ合わせて、
『予感』という歌を完成させました。
生暖かい風が吹く、
雨あがりの春の夜を思い浮かべながら、
耳を傾けて頂けたなら、うれしいです。
予感 ピコジュール
Lyrics,Music,Photography and Video by Picojoule ©️2021 Inagi Kaori